更新日2018.02.05 カテゴリー 耐震補強工事について

耐震補強工事には、建物の構造、現在の耐震性能、工事後の美観や利便性をどこまで保つかといった判断によって、様々な方法がございます。ここでは、マンションの壁面によく行われる「スリット補強」について解説します。
スリット補強とは、柱と壁を離す工事
地震の揺れを受けると、建物は水平に揺れようとします。もし柱だけで壁の無い建物であったならば、倒壊しない建物も多くあります。柱は揺れて湾曲することで、力を逃すことができるからです。
しかし、柱と壁がくっついている場合、壁が柱の湾曲を阻害します。十分な壁がくっついていると柱が強くなるのですが、中途半端な壁だと、その柱に水平方向の力が集中して柱を破壊してしまうのです。
そこで、柱と接している壁に対し、柱と壁の間に細い切り込みを入れて隙間を作ります。これがスリット補強です。
柱に動く遊びを持たせる、つまり柱の高さを壁の無い柱と同じ高さにし、湾曲できるようにすることで、
柱にねばりが出て破壊されにくくなります。
柱さえ守ることができれば、倒壊は防ぐことができます。たとえ建物や家財道具に被害が出たとしても
柱が折れ、建物が潰れてしまわなければ人命は守ることができますので、非常に有効な工事です。
新耐震基準のRC造にはスリットが採用されています
1981年(昭和56年)の建築基準法の改正時に、新耐震基準が設けられ、これ以降に建築申請が出されたRC造(鉄筋コンクリート造)の建物には、耐震スリットが入れられています。
耐震スリットが採用されるようになったのは、過去の地震で垂壁(天井から垂れ下がる形状の壁)や腰壁(床から立ち上がる形状の壁)のある柱にせん断破壊が多く見られたためです。
柱は、長いほど靱性(粘り強さ)が上がり、短いほど靱性が低くなることで、せん断力が大きくなる傾向があり、柱の破壊を招きます。
中途半端な壁が取り付くと柱は拘束されてしまうので、本来の柱が保有しているねばりが生かされていません。
1981年の建築基準法改正までは、垂壁や腰壁が、ここまで柱の剛性を上げてしまうとは考えられていませんでした。そこで、現在のRC建物では構造上必要ではない腰壁や垂壁のような壁も、耐力に影響する壁と考えて設計するようになったのです。
スリット補強工事の流れ
①スリット入れ(切断)
RCレーダーによって鉄筋の位置を把握し、コンクリートカッター(コンクリート用のディスクグラインダー)にダイヤモンドカッターを取り付けて壁を切断します。
スリットの隙間は3~5センチほどです。
②スリットの隙間に耐火材を埋め込む
隙間が空いたままでは、耐火性、防水性、保温性に問題があるので、耐火材を入れ、上から止水用にシーリングを行います。
同色の塗装を行えば、美観を損なわずに仕上げることができます。上の図のように柱の横すべてでなくてもかまいません。
本来は柱と壁の間を完全に縁を切る完全スリットの工法が取られていましたが、最近では建物の状態に応じて部分スリットという工法も用いられています。
③完成
コンクリートを切るため、工事中は大きな音、粉塵、水が出ます。完全スリットの場合は屋内の家財道具を動かしていただき
屋内での作業が必須です。部分スリットの場合は屋内に影響が出ないので、居住者への負担を最小限に抑えることができます。
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