更新日2019.10.10 カテゴリー オーナー様向けコラム
70年代から90年代にかけて建てられたマンションの多くには、断熱材や耐火材としてアスベストが使用されています。耐震診断は柱や梁などを確認する作業があるため、吹付材がある場合は剥がして確認します。しかし、吹付材は専門業者でないと除去できません。吹付材の除去費用の目安と、対策についてご説明します。(画像出典:Wikipedia「吹きつけアスベスト」)
2006年以前に建てられた建物はアスベストが使われている可能性が高い
アスベストに発がん性があることは1930年代にはわかっていましたが、世界的には周知されておらず、日本では優れた耐火材・断熱材として多くの建築物に使用されてきました。アスベストの輸入量がピークに達したのは1970年代半ばで、90年代前半まで変わらず大量消費されていました。
70年代にアスベストの健康被害がわかってからも段階的な禁止措置が取られてきたため、アスベストを用いた新たな建材が使われなくなったのは実に2006年9月と最近のことです。
●アスベスト禁止措置の歴史
1975年:アスベストを5%以上含む吹付け建材の使用禁止
1995年:アスベストを1%以上含む吹付け建材の使用禁止
2004年:アスベストを1%以上含む製品の製造禁止
2006年:アスベストを0.1%以上含む製品の製造禁止
アスベスト問題が本格化するのはこれから
アスベストの曝露から肺がんの発症までには15年から40年、中皮腫の発症には30年から50年の潜伏期間があります。病気を発症する人は年々増えており、国立がん研究センターは、中皮腫の被害がピークを迎えるのは2020年代後半と予測しています。
さらに大きな問題は、アスベストを含む既存の建物。
70年代に建てられたマンションの多くはいまだ現役で、アスベスト含有建材は日本に4,000万トン存在すると言われています。
環境省は「平成17年度アスベスト含有廃棄物の処理技術調査報告書」において「今後毎年100万トン以上の石綿含有建築材料が廃棄物として発生する」と予測。これらの建物を取り壊す際にアスベストが飛散しないよう法規制が敷かれています。
アスベストが使われている建物は専門業者が調査、除去を行います。
アスベストについては、建築基準法、労働安全衛生法、大気汚染防止法、石綿障害予防規則、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律、宅地建物取引業法、特定化学物質等障害予防規則、廃棄物処理法といった多くの法令が関係します。
いずれも、アスベストを飛散させたり人体に曝露させたりしないようにするための法律です。
70年代から2006年までに建てられた建物の耐震診断を受ける際には、アスベスト調査を行ってください。
耐震診断の現地調査では、構造部材を露出させるところまで建材を取り除きます(部分的な工事です)。吹付材の中にアスベストがあった場合はそれを除去します。特に、鉄骨造の建物は鉄骨に吹き付けアスベストが使われていることが多いので、除去作業をしないと耐震診断ができません。
ところが、耐震診断を行っている設計事務所はアスベストを触ることができません。
アスベストは、専門の処理業者が飛散防止策や除去作業を行わなければならないと法律で決まっているからです。
もし耐震診断中にアスベストと思われる建材が出てきた場合は作業を中断することになってしまいます。そのため、事前の調査をお願いしています。
アスベストかどうか、素人では判断ができない
アスベストかどうかの調査は専門業者が行います。見た目では判断ができません。
アスベストの代替品として登場したロックウールは、見た目はアスベストに似ていますが発がん性はありません。また、70年代から80年代にかけてはアスベストの「封じ込め」「囲い込み」という暫定処置が行われました。そのため、建物内部から見るだけでは判断できないケースが多いです。
ただ、築年数から推定することは可能です。70年代から90年代に建築された建物なら、アスベストが使われている可能性は非常に高いと見てよいでしょう。
アスベストの調査費用と除去費用について
アスベストの調査費用は数万円程度です。
アスベストの除去費用は、社団法人建築業協会の調査した金額を国土交通省も「石綿(アスベスト)除去に関する費用について(平成19年1月〜12月調査)」に転載しています。参考までに除去費用をご紹介します。
アスベスト処理面積 300㎡以下:2.0万円/㎡~8.5万円/㎡
アスベスト処理面積 300㎡~1,000㎡:1.5万円/㎡~4.5万円/㎡
アスベスト処理面積 1,000㎡以上:1.0万円/㎡ ~3.0万円/㎡
処理面積100㎡なら最低でも200万円から。
なお、この処理面積は建物の床面積ではないことに注意が必要です。柱や梁など凹凸のあるものに吹き付けられているので、床面積は当てになりません。建物ごとに条件が異なります。
耐震診断は部分的に構造部材を露出させるだけですが、それでも除去費用は安くはありません。
アスベストの助成金が使える自治体が多い
アスベスト調査、除去については、多くの地方公共団体で補助金制度を設けています。
調査も除去も、補助金を受ける前に地方公共団体の窓口に相談して、補助金の交付申請をしてから調査・除去を行い、後から補助金を受け取ります。
この助成金は、耐震診断・耐震補強を目的とする場合でも利用することができます。
除去費用は高額になることが多いので、ぜひ補助金を利用しましょう。
該当地域の地方公共団体に問い合わせてみてください。
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