更新日2017.05.09 カテゴリー オーナー様向けコラム
もし所有しているマンションなどの賃貸物件が地震で倒壊し、住民に死傷被害が出た場合、責任は誰にあるのでしょうか。天変地異は予測不可能なのだからオーナーに責任はない、と思い込むのは早計です。建物の所有者は安全性について配慮する義務があり、建物の設置や保存に瑕疵がある場合は賠償責任が生じることがあります。
建築物の所有者に科せられる「工作物責任」とは
土地や建物の所有者には、その工作物が他人に損害を与えないよう注意し、適切に設置、保管する義務があります。これは、民法によって定められています。
第717条
1.土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
ポイントは、「設置又は保存に瑕疵がある」という点です。
これは、通常考えられるべき安全な設備が整っていないことを指します。
エレベーターが定期点検されていない、共用部分が真っ暗で誘導灯がないなど、様々なケースがあるため、工作物責任では建物の耐震性能について厳密に定めてはいません。しかし、耐震性能に問題がある建物内で入居者に被害が出て、オーナーが損害請求されたケースがあります。
震災で入居者が死亡。オーナーに1億2,900万円の損害賠償
オーナーの工作物責任が問われた例として、度々取り上げられる判例があります。
1995年の阪神・淡路大震災で入居者が死亡したマンションオーナーに、損害賠償が命じられました。
支払額は1億2,900万円です(出典:判例時報1716号)。
阪神・淡路大震災では賃料の安い学生アパートが多く倒壊しました。
この建物の倒壊で犠牲となったのも若者です。
一階部分が完全に潰れ、4名が死亡し数名が怪我を負いました。
周囲の建物も地震被害を受けていましたが、この建物の被害は目立って甚大でした。
そのため、被害者の親たちは建物のオーナーに対し3億円の損害賠償を請求しました。
建物は昭和39年に建てられた「軽量鉄骨コンクリートブロック造一部鉄筋コンクリート造三階建」。
しかし、入居者には契約時に「鉄筋コンクリート造三階建」と説明していたのです。
しかも、壁の厚みや鉄骨の量が不十分、壁と柱が十分連結されていないなど、
実は大きな欠陥を抱えた建物でした。
オーナー側は、一階部分の崩壊は予想外の大地震によるもので不可避だったとして争いましたが、
建物が建築当時の耐震基準を満たしていなかったことがわかり、上記の判決となりました。
「震度5弱から震度6弱に耐えられるかどうか」が判断基準となる
未曾有の大震災が起きたときにオーナーは建物崩壊のリスクを一身に負わされるのかというと、そういうことではありません。
どこからが「設置又は保存に瑕疵がある」とされるのか明確にするのは難しいのですが、過去の判例からすると、建築当時の耐震基準を満たしていることを前提に、震度5弱から震度6弱程度の地震に耐えられるかどうかが一つの基準と言えます。工作物責任は「無過失責任」と言われ、瑕疵がいつ発生したかは関係ありません。
つまり、オーナー自身が違法な手抜き工事を発注したりしていなくても責任を問われてしまうのです。
免責特約を結んでいても訴訟に発展する可能性
それでは、賃貸契約時に「大震災の際に建物の崩壊・倒壊によって居住者に被害が出たとしても、貸し主は一切の責任を負わない」
という特約を結んだらどうでしょうか?
その場合、特約の効力は低いでしょう。賃貸人は、適切な住まいを提供することで賃料を得ています。
そのため、建物の使用及び収益に必要な修繕義務を負っています(民法606条)。
建物が安全に使用できない状態は、債務不履行となるのです。
また、消費契約法により、どちらか一方的に不利な契約は無効とされてしまいます。
そのため、訴訟に発展するリスクを逃れることはできないでしょう。
相続、譲渡された古い建物は要注意
貸物件は所有者が転々としている場合も多いので、
オーナーが自身の所有する建物の性能を十分理解していないというケースが非常に多いです。
無理な増改築によって、建築当時の強度が損なわれていることも考えられます。
先に述べたようにオーナーには、様々な法律によって建物の安全性を保つ義務が科せられています。
古い賃貸マンションを所有している方で、耐震性能にご不安があるなら、まずは耐震診断を行って下さい。
耐震診断には、区市町村より助成金が支給される場合があります。
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