更新日2018.10.15 カテゴリー オーナー様向けコラム
もし所有するブロック塀が地震によって倒壊し、人や物に被害を出してしまったら。その責任は所有者に課せられます。約6,800万円の損害請求を起こされている例がありますし、悪質な場合は刑事告訴される場合もあります。危険なブロック塀を放置することは厳禁です。
脆弱なブロック塀を放置することの恐ろしさ
2018年6月の大阪府北部地震で、9歳の女の子と80歳の男性が倒壊したブロック塀の犠牲となりました。特に女の子の死が大きく報道されたため衝撃を受けた方は多いと思いますが、あれは特殊な例ではありません。
過去の大きな地震でも、ブロック塀による被害者は毎回出ており、これはずっと以前から問題視されていました。
コンクリートブロックが崩れて人の上に降り注いだとすると、どうなるでしょうか。
ブロック塀に使われるC種と呼ばれる規格のコンクリートブロックで、最も薄い100mmのタイプでも、1個あたりの重さは10キロです。
実際には、コンクリートブロックをつなぐモルタルが同時に落ちてきますし、高さに応じて重力加速度がつくので、状況によって受ける衝撃は百キロを越えると言われています。たった一つのブロックでも脅威となることは想像に難くありません。
倒壊した場合、所有者が損害賠償する必要がある
もし所有する建築物のせいで人に怪我をさせたり、物を壊したりした場合、その責任は所有者が負うことになっています。建築物の所有者には、もれなく「工作物責任」が課せられているためです。工作物責任とは、工作物の瑕疵によって他人に被害を与えた場合に、工作物の占有者・所有者が負う賠償責任のことです。
中古建物を購入したり相続したりして所有者となった場合でも、この責任は変わりません。ここでいう「瑕疵」とは「自ら手抜き工事を依頼した」でも「危険と知っていて放置した」でもなく、危険な工作物を所有していることそのものを指します。
「私は施主ではないし、購入時に説明も受けなかった。強度に問題があるなんて知らなかった」という言い訳は通用しないということです。
これは、民法第717条によって定められています。
第717条
1.土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
熊本地震のブロック塀被害者遺族、約6,800万円の損害請求
2016年4月の熊本地震では、ブロック塀の下敷きになって死亡した男性の遺族、重傷を負って後遺症が残った女性がブロック塀の所有者に対し損害請求を求める訴訟を起こしています。
問題のブロック塀には基礎工事がされておらず、倒壊することは想定できた、所有者が工作物の安全義務を怠ったためという主張です。請求額は二人合わせて6,800万円です。
係争中のため最終的にいくらで決着するかは不明ですが、所有者の過失が認められれば数千万円の支払命令が出る可能性は十分高いように思います。
「過失致死傷罪」として刑事罰を受ける可能性も
熊本での男性被害者遺族と女性被害者は、民事訴訟だけではなく刑事告訴もしています。
2017年10月31日、熊本県御船警察署に刑事告訴状が提出されました。告訴状は、冤罪や嫌がらせを防ぐため、出しさえすれば何でも受理されるというものではありません。この告訴状も、一旦は受理されませんでした。
しかし、警察が捜査を開始し同年11月に受理されています。起訴されれば、ブロック塀の所有者は刑事事件の被疑者です。民事訴訟だけではなく刑事裁判に臨まなければなりません。無罪になったとしても、長きにわたる裁判は金銭的にも心身にも大きな負担となるでしょう。
日本の刑事裁判は有罪率が95%以上と言われますから、起訴された時点でほぼ勝ち目のない闘いとも言えます。
有罪になった場合、過失致死罪の刑罰は50万円以下の罰金です。金額的には大きく感じないかもしれませんが、一生消えない前科がつくことのダメージは計り知れません。
建築時の建築基準法を満たしていても、違法となりえる
建築基準法は、過去には遡及しないので、所有している工作物が現在の建築基準法を満たしていなくても、建築当時の基準を満たしていたのであれば、所有すること自体は違法ではありません。
しかし、その工作物のために被害を出してしまったら、民事上は被害者に補償しなければなりません。なぜなら、工作物の所有者には、それを適切に維持・管理する「注意義務」が課せられているためです。故意や過失がなくても責任を負うことを、無過失責任と言います。
ややこしいですが、建築基準法は民事上の紛争を解決する法律ではありませんので、別の問題として切り分けられるのです。
手抜き工事が原因だった場合も、損害賠償は必要
所有者が注意義務を果たしており、基準通りに発注していたにも関わらずブロック塀が倒壊してしまった。調べてみると、手抜き工事が原因だった!という場合も、一旦は被害者への補償を所有者が行う必要があります。
「私だって被害者なのに!」と思われるかもしれませんが、ブロック塀の被害者と工事を請け負った業者は無関係だからです。まずブロック塀の所有者が被害者への義務を果たしてから、次に工事を請け負った業者を相手に損害の請求をするという流れになります。
二度の裁判が終わるまでには長い月日を無駄にするでしょう。業者には業者の言い分があるかもしれませんから、損害賠償額の100%を取り戻せる補償はありません。
危険なブロック塀は今すぐに対策を
実際の裁判では、加害者の責任が100%という判決にはなりにくく、所有者の注意義務がどこまで果たされていたかが勘案されます。しかし、危険なブロック塀の所有者が、常にこのような大きなリスクを負っていることには変わりありません。
至急、ブロック塀の見直しをしましょう。強度が足りない場合、すべてのブロック塀がゼロから施行し直しになるわけではなく、補強工事のみで済む場合もあります。
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