更新日2017.12.25 カテゴリー オーナー様向けコラム
所有するマンションにピロティがある場合、耐震性能は低いのか
ピロティ構造の建築物は、地震には弱いと言われています。56年の建築基準法改正で耐震基準は大きく改正されていますが、
いわゆる56年以降の「新耐震」でも、ピロティ構造の建築物が大地震で被害を受けた例があるためです。
しかし、すべてのピロティがすなわち「ダメな建物」なのかというと、そうではありません。
所有するマンションにピロティがある場合、耐震性についてどこまで心配すればいいのか、どうしたら良いのかを解説します。
ピロティとは
ピロティとは、一階部分を柱で持ち上げて壁の無い外部空間と一体化させた構造(その空間を指すこともあります)のこと。
コルビジェの「サヴォア邸」はピロティや水平連続窓など、近代建築のエッセンスを凝縮させた象徴的作品として有名です。
20世紀初頭に活躍したコルビジェ以降、ピロティは世界中で活用されるようになりました。
「サヴォア邸」(フランス/ポワシー)
ピロティの耐震性は、確かに低い
しかし、これは構造様式としての見方ですが、耐震診断の目線から見たピロティは少し違い、次の2つを満たしたときに、ピロティであるといいます。
① 建物が鉄筋コンクリート造(RC造)または、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)であること。
② 下の階に壁が無く、上の階に壁があること。
つまり、①の場合、鉄骨造の建物は、ピロティであってもピロティではないのです。
②の場合、1階にピロティがあっても、2階に壁が無く窓だらけであれば、ピロティでは無くなります。また、マンションでお隣との間の壁を取り除き、広く事務所などにしているお部屋があれば、もしかしたらそれはピロティを作ってしまったかも知れません。②の判断は、難しいですね・・・
分からないときは、ご相談をください。
東京江戸博物館(墨田区)
新耐震に適合していても、被害を受けたピロティ構造の建物がある
ピロティは、見た目からしていかにも危なっかしく見えますね。「東京江戸博物館」などは、見ているだけで不安に駆られてしまうかもしれません。
昭和56年に建築基準法は改正され、耐震基準が大きく見直されました。昭和56年以降に建築確認が取れている建物は、「震度6強〜7の大地震では倒壊はしないこと」ということになっています。しかしこの言葉は「震度6強〜7の大地震では倒壊せず、大きな被害までは良い」と言い換えられるのが建築基準法なのです。つまりピロティ構造の建物はこの考え方のもとでどんどん建てられてきました。
しかし、平成7年の阪神淡路大震災でその前提に疑問が投げかけられました。
ピロティ構造であり、壁の配置が1方向に偏っている建物やL字型等の正形ではない建物に倒壊したものが多く、その中には、新耐震基準で建てられたものも倒壊をしていたからです。これは、平成28年の熊本地震でも見られた特徴です。
しかし、この様な建物はごく一部であり、残念ながらどんな物にも絶対というものが無いため、その一部と考え建築基準法は今でも変更されず昭和56年のままとなっています。
○阪神・淡路大震災教訓情報資料集【03】建築物の被害(内閣府/防災情報のページ) http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/hanshin_awaji/data/detail/1-1-3.html ○熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会(第2回) http://www.nilim.go.jp/lab/hbg/kumamotozisinniinnkai/20160630pdf/20160630haihusiryouissiki.pdf 弊社による熊本地震の耐震調査でも、ピロティ部分の崩壊が見られました。
ピロティが地震に弱い理由
建物に対する地震の水平力は、上の階にいくほど大きくなります。
地震の時、1階にいるのと10階にいるのでは、揺れの大きさが違います。この揺れが水平力です。つまり、建物の水平剛性は上に行くほど大きくすれば建物は揺れにくくなります。しかし建物の剛性をそのようにするのは難しく、一律の剛性になっていれば優秀な方です。
実際には、特定の層にデザイン的に吹き抜けを作ったり、エントランス層だけ天井を高くしたり、土地の形状が不規則なために建物自体が左右非対称になったりします。そのため、逆に低層階は剛性が大きく、高層階は剛性が小さいというケースもあります。
建物の水平剛性は高ければ高いほどよいというものではありません。
建物の倒壊を防ぐという観点では、建物全体の剛性に断層を作らないことが肝心です。
構造的に、特定の階層だけ剛性が小さいという場合、その部分に変形が集中するため柱のせん断破壊が起きます。これが、特定層だけがぺしゃんこに潰れてしまう原因です。
ピロティは、周囲に壁がないので一階にありながら剛性が小さくなります。ピロティ構造の建物が倒壊しやすいのは、ピロティ部分の柱のねばりが足りないからなのです。
お持ちのマンションにピロティがあって不安なら
阪神淡路大震災や熊本地震でピロティのある建物が軒並み倒壊したわけではありません。ピロティ部分の剛性が小さいことはわかっていますから、あらかじめ対策をとることは可能ですし、そのように強く作られた建物はたくさんあります。
一方で、新耐震を満たしているのに倒壊したという事実は、やはり不安をかき立てると思います。
ご心配な方は、耐震診断を受けてください。その上で、耐震性に問題がある場合は、既存の建物に耐震補強工事をすることで、地震に備えることができます。
ピロティ部分の耐震補強工事には、耐震性によっていくつか工法を選ぶことができます。
建物の耐震性がそれほど低くない場合は、柱だけを補強して終わる工事もあり、壁ができたり駐車場が長く使えなくなったりといった負担が少なくすみます。
耐震補強工事の方法については、別の記事にて詳しく解説いたします。
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