更新日2018.06.06 カテゴリー オーナー様向けコラム
地震被害で賃貸マンションに修理の必要が出れば、その費用負担はオーナーが行います。リスクに備えるために地震保険に入っている方は多いと思いますが、地震保険はその性質上、補償額が低く、修繕費用、建て替え費用には到底足りないケースが多いです。それでは、オーナーさんは地震リスクに備えて、どうすればよいのでしょうか。
賃貸マンションの修繕費用は、地震が原因でもオーナー持ち
地震被害で賃貸マンションに修理の必要が出れば、その費用負担はオーナーが行います。
賃貸マンションの持ち主はオーナーなので、賃借人に責任のないことで修理が必要になったのなら、契約時の住宅性能を維持するためにオーナーが修理しないと、契約違反になってしまいます。
これは次のように民法に定められています。
●民法第606条
1.賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
2.賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
例えば、地震で家具が転倒して、障子、襖、ガラス窓が全壊した部屋が一戸だけあったとします。
あるいは、90リットルの大型水槽がひっくり返って水浸しになり、フローリングがダメになったとします。
被害が出たのは一戸だけ。他では被害なし。
「大型家具なのに転倒防止器具を付けておかなかった方も悪いのでは?」「趣味でアクアリウムをやっていたのだから、自分で責任をとって欲しい」と思われるかもしれません。オーナーも被害者ですし、住民と折半したいという気持ちは分かりますが、この場合もオーナーの全額負担となります。
上の例では、数十万円の出費で済みそうですが、大型地震では、エレベーターの損壊、非常階段の損壊、玄関ドアすべて、建具すべて、外壁すべてなど、大きな被害が出る場合もあります。そうなると、修繕費用が数千万円になる例もあります。
画像出典:内閣府「防災情報のページ」淡路大震災被害
地震保険は上限が低く、建物評価額を下回るケースが多い
賃貸マンションのオーナーさんは火災保険に入っていることと思います。ご存じの通り、火災保険では地震被害には対応できません。そこで、地震被害を補償する地震保険があります。
地震保険は、火災保険とセットで加入しますので、火災保険に入っていないと入ることができません。
それでは、地震保険に入っていれば一安心かと言うと、そうではありません。
地震保険は火災保険に付帯する形でしか契約することができず、補償金額も火災保険の金額に左右されます。また、上限が低いのです。
●契約できるのは、火災保険の保険金額の30〜50%
●補償金額の上限は、建物5,000万円、家財1,000万円
火災保険は、建物の評価額めいっぱいまで入ることができます。評価額1億円の建物なら、1億円の補償が必要でしょう。
しかし、地震保険では建物の評価額に関わらず上限が決められているため、1億円の地震保険にはそもそも入ることができません。
火災で建物を失ったのなら1億円をもらうことができますが、地震で建物が倒壊したり地震による二次被害で火災が起こり、建物を失った場合は、5,000万円までしか支払を受けることができません(※実際の保険金の支払額は、評価額ではなく時価で算出するため、もっと下がります)。
地震保険の支払は4区分。少しの差で補償額が激減する
地震保険のもうひとつのデメリットは、実際の被害を細かく検分して被害総額を出してはくれないという点です。
損害区分は4つ。それに応じてパーセンテージで補償金が支払われるシステムです。
地震が原因で火災になって延床面積の大半が失われても、焼失69%とされてしまったら、それは全損ではなく大半損ということになります。
評価額1億円の建物で、1億円の火災保険に入り、上限5,000万円の地震保険に入っていても、受け取る金額は、5,000万円の60%。3,000万円です。
一般的には、延床面積の7割が失われるほどの火災の場合、その建物にはもう住むことはできません。全損と同義です。マンションオーナーを続けるならば、建て替えを迫られるでしょう。3,000万円では到底足りません。
玄関ドアが全戸交換となって、一部破損と判断された場合はどうでしょうか。
マンションの玄関ドアの交換費用は、20万円が相場です。
全20戸のマンションだったら、玄関ドア交換だけで400万円の修繕費用がかかります。
しかし、地震保険でカバーされるのは5,000万円の5%ですから、250万円です。
このように、地震保険は、「最高額の補償をつけても建物を元通りにはできないかもしれない」という保険なのです。
地震保険は入っても意味がない!?
地震保険のシステムを見ると、まったく頼りない保険に見えますね。
これは、地震保険の目的が「被害を受けた建物や家財を元踊りにすること」ではないからです。
地震保険は、生活再建を目的としています。
地震保険は国と民間が共同で作りました。地震で町全体が機能不全に陥る可能性がある日本だからこその保険であり、個人の財産を守るというよりは地震後の生命を守ることに重きが置かれています。その証拠に、保険会社が支払う保険金は国が再保険しています。
被害区分を4つに大別するのも、大規模災害後のリカバリをスムーズにするためでしょう。
地震被害は同時・広範囲に起こりますから、被害認定や支払に何ヶ月もかかってはその間の被災者の生活に影響が出るからです。
保険料が余分にかかるとはいえ、地震保険は不要とまでは言えません。入るべきかどうかは、目的を理解して判断しましょう。
耐震化で、建物を守る
地震保険が建物の完全な復元を補償してくれないとなると、オーナーには大きな不安が残ります。
大地震が来ないよう、祈ることしかできないのでしょうか。
そんなことはありません。もし、所有している賃貸マンションの耐震性に不安があるのなら、耐震補強工事を行いましょう。東京都の調査では、耐震工事を行ったマンションの半分以上が、総工事費1,000万円以下で済んでいます。2割以上は、500万円以下です。
災害対策費は、なかなか個人では出しにくいものです。
しかし、もしもの時に保険はカバーしてくれないという点を考えると、一考の価値はあるのではないでしょうか。
住民の命を守り、災害後にオーナーも住民も生活が続けられるためには、地震に強い建物にするのが最もよい方法です!
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