すべての医療施設は災害時に被災者にとって重要なよりどころとなります。そのため、医療施設の耐震化については複数の省庁が助成事業を行っています。耐震性に不安のある医療施設は、早めに情報収集をしましょう。
病院の耐震工事は義務?努力義務?
医療施設の耐震化は、1995年の阪神淡路大震災後に『建物の耐震改修の促進に関する法律』によって努力義務が課せられました。
また、この法律は2013年と2019年に改正されており、次の二つの建物に耐震診断が義務づけられています。
(1)要緊急安全確認大規模建築物
(2)要安全確認計画記載建築物
病院はこの両方に該当する可能性があります。(1)には、「不特定多数の方が利用する大規模建築物」が含まれますし、(2)には「防災拠点建築物」が含まれます。
「不特定多数の方が利用する大規模建築物」に含まれる医療施設は、階数3以上かつ床面積の合計が5,000㎡以上の建築物です。病院、クリニック、診療所も含まれます。
「防災拠点建築物」は、自治体が指定した病院です。
これに該当する医療施設は、耐震診断を受けて結果を報告する義務があります。ただし、現行法の耐震基準を満たしていなかった場合は、結果が公表されます。
耐震改修工事まで強制する法律はないので効力は弱いと言えますが、努力義務があることには変わりありません。
昭和56年以前に建てられた建物の場合は、早めに耐震診断を受けなければなりません。
→ 引用元:耐震改修促進法についてはこちら(国土交通省)
病院の耐震改修はどれくらい進んでいる?
厚生労働省の平成30年度の調査で、病院の耐震化率が発表されています。
病院の耐震化率:74.5%
災害拠点病院、救命救急センター:90.7%
なお、昨年は病院の耐震化率は72.9%、災害拠点病院と救命救急センターの耐震化率は87.6%でした。
2015年に決定された「国土強靱アクションプラン」では、平成30年までに災害拠点病院、救命救急センターの耐震化率を89.0%にする目標が定められていたので、見事にクリア。
90.7%という数字は優秀に見えます。
災害拠点病院は、一定の条件を満たした病院が自治体から指名されて決定されます。公にされている条件は、24時間対応できる体制や、ヘリポートの有無など。建物自体の安全性については明確ではありませんが、東京都の福祉課に話を聞いたところ、そもそも耐震性に問題のある建物は選ばないとのこと。耐震性も選定基準のひとつのようです。
つまり、災害拠点病院は最初から耐震基準を満たした建物が選ばれているということです。耐震化率が高いのもうなずけますね。
→ 引用元:病院の耐震改修状況調査の結果(厚生労働省)
災害拠点ではない病院の耐震化が遅れている
問題は災害拠点ではない病院の方です。25.5%の病院が耐震基準を満たしていません。
これは、非常に大きな数字とみるべきです。
この調査では、全国8,383の病院を調査しており、回答が得られた病院数は8,362です。
耐震性についての回答の具体的な数字は次の通り。
(A)全ての建物に耐震性のある病院数:6,231
(B)一部の建物に耐震性がある病院数:664
(C)全ての建物に耐震性がない病院数:123
(D)建物の耐震性が不明な病院:1,344
B、C、Dのうち、耐震化が予定されている建物の数:73
耐震性がない部分があると回答している病院の合計は787。明るみになっている数字だけでかなりの数です。仮に「耐震性は不明」と答えているすべての病院に耐震性がなかった場合、その合計は2,131にもなります。一県あたり50病院です。
言うまでもなく、病院には自力で逃げることが困難な患者様が多くいます。また、災害拠点に指定されていない施設でも、実際に災害が起これば被災者が殺到するでしょう。すべての病院は絶対に地震で倒壊してはいけない建物です。
病院の耐震化には、助成金事業があります
厚生労働省の調査に基づいているのでしょうが、耐震性に不安がありそうな病院には個別に自治体職員が訪問して耐震化の案内をしているようです。
耐震診断や耐震補強工事の助成金事業は、管轄がバラバラです。
国土交通省、厚生労働省のほか、自治体のサイトでも紹介されています。
たとえば東京都の場合は、東京都福祉保健局で助成金を取り扱っています。
自治体で扱う助成金事業は、直接補助と間接補助(省庁から予算が下りているもの)があるのですが、各自治体サイトでの掲載の仕方が統一されていません。
耐震化の助成金について調べる時は、まず自治体のサイトを確認してください。
該当するものがなければ、国土交通省、厚生労働省をチェックします。
助成金事業は毎年必ずあるものではありません。打ち切りになれば終わりなので、今のうちに耐震化を検討されてはいかがでしょうか。